本シンポジウムの共催団体の一つであるエンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワークの理事をしております柴田未来です。本シンポジウムの広報を担当しています。
今回は、シンポジウムで基調講演をして下さる山下泰裕氏を、東海大学の研究室に訪ね、お話を伺ってきましたのでご紹介致します。

長野で強化合宿からその日の朝に
帰ってこられたばかりのお疲れの中、
いつもお写真で拝見する満面の笑みで
出迎えて下さった山下氏。

(柴田)
この度は、ローエイシア、日弁連が主催するスポーツ法シンポジウムの基調講演をお引き受け頂き有り難うございます。
ローエイシアというアジア・太平洋の国々の法律家で構成する団体が主催をするスポーツをテーマとするシンポジウムを、日本がホスト国となって、中国・韓国と協力しながら開催することは素晴らしいことだと思っています。
山下先生が、スポーツを通じて国際交流、国際貢献を目指して活動されていることと志は共通すると思うのですが、日頃の活動を、その思いともにお聞かせ下さい。

(山下氏)
去年(2006年)4月に『NPO法人柔道教育ソリダリティー』(http://www.npo-jks.jp/index.html)を立ち上げました。柔道を通した国際交流、異文化交流をはかることを目的にしています。
世界柔道連盟に加盟している195カ国の中には貧しい国もある。そのような国にはこのNPOを通して柔道着や畳を贈ったりして支援しています。
柔道は、柔道着、これは外国人からするとまさに「着物」なんですが、その着物を着てするもの。そして、裸足で畳の上に立ち、日本式の礼をします。試合で使われる言葉も日本語。柔道を学ぶだけで日本の伝統文化を体験することができます。柔道を学んでいる人は、日本に対する興味関心が高いんです。

柔道を普及させることによって、柔道の心、日本の心を伝えていく、異文化交流を通して互いの理解を進めることを目指しています。そして、国内外を問わず、柔道を通して青少年の健全育成という視点でNPOを設立しました。

他に、中国の柔道チームにコーチを派遣するなど、中国チームの強化にも協力しています。
私たちの活動を知った外務省が協力してくれて、もっと中長期的な視野で日中の関係を深めるために、チンタオに今年の秋に柔道館ができます。これには中国側も是非協力したいと言ってくれています。実は、次の候補地は南京なんです。

スポーツを通じた交流をして、それがその国で報じられるということは大きな効果があります。
ロシアのプーチン大統領は柔道好きですが、以前、武装集団による学校占拠事件で被害を受け傷ついたベスランの子ども達を日本の国際中学生柔道大会に招待したことがあります。
その後、来日したプーチン大統領とお会いしたときに最初の言葉が、「テロで傷ついた子ども達を柔道の交流を通して励ましてくれたと聞いている。ありがとう」。
その後、ベスランの子ども達のために、畳100枚と柔道着を贈りました。その贈呈式をサンクトペテルブルグで開催した時には、ロシア全土にテレビ報道されて大きな反響がありました。

(柴田)
山下先生と言うと、やはりロサンゼルス・オリンピックの決勝戦が印象に残っています。
あの時は対戦相手のエジプトの選手が骨折されていた方の足を決して攻撃しようとはしませんでしたね。その姿を見て、日本人の武士道は日本人ではなく、柔道をしているひとの共通の価値観に広がっているような気がしました。

(山下氏)
外国人でもそういう気持ちを大事にしている人がいます。
プーチン大統領も柔道は自分にとってスポーツではない、哲学だと言い、柔道で学んだことが人生になっていると言っていました。
柔道で使う言葉は日本語。使っているうちに少しずつ理解できるようになります。そこから日本文化に興味を持つ人も多いのです。

しかし、柔道が日本で始まった競技だと知らない国が多いのも事実です。
国際柔道連盟には195ヵ国が加盟しています。あるアフリカの国にフランスの指導者が行って柔道を教えれば、その国の人は柔道はフランスで始まったと思うし、韓国の指導者が行けば韓国で始まったのかと思う人もいます。他の国の人がどれだけ日本を知っているのか。その意味では日本が存在感を出すということはなかなか難しいと感じています。

(柴田)
先ほど、中国の柔道チームの強化に協力されていると伺いましたが。

(山下氏)
この話しをすると、賛同してくれる人が半分、後の半分は「何故そんなことをするのか、どうするんだ、日本が中国に負けたら」といいますね。どちらも正直な感想だと思います。

(柴田)
後者に対してはどうお答えになるんですか?

(山下氏)
日本と中国がオリンピックで対戦するのは嬉しいと答えます。一回戦で対戦したのでなければ、両方がそこまで勝ち上がってきたということですから。
畳の上にいる時は対戦相手ですが、畳を離れた時には敵ではない仲間です。私はそう思っています。
お互い切磋琢磨していけたら良いと思います。
日本が良くなるために、世界が良くなるために、それぞれの立場で頑張りたい。やっている仕事は違っても、最終的に同じものを目指そうという思いが強いですね。

現役時代は、畳の上に上がって対峙しただけで殺気を感じると言われました。どうしたら相手を倒せるか、それしか考えていませんでしたね。畳の上で死んでもいいという気持ちでやっていました。
私の人生の前半はずっと戦ってきましたから。戦いはもう良いと思っています。人生の後半は、平和で、みんなが安心して暮らせるように役に立ちたい、そんな思いで活動しています。

〜インタビューを終えて〜

山下氏の、地道な活動を続けておられる熱意と情熱に触れて、とても感動しました。
柔道を学ぶ海外の方々が、日本の文化に自然に触れ、日本に興味をもたれると伺いましたが、これもスポーツの素晴らしい側面の一つではないかと思います。
そして、山下さん達のNPOの活動がこれほど多くの人に影響を与えているのは、やはり「世界の山下」の存在があればこそだと強く感じました。
こんなに素晴らしいゴールド・メダリストを、日本が輩出したことを誇りに思いました。
そして、スポーツがもつ影響力の大きさを改めて知らされました。
シンポジウム当日も、どんな素敵なお話を聞かせて頂けるか楽しみです。